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「56」

表に見せる自分の顔と、内面(家庭内)での自分の顔が、ぼくは全く違っていた。三人兄弟の末っ子ということもあってか、人当たりに関しては昔からよかった。というのも、兄ちゃん達みたいに親に怒られないように”うまいこと”立ち回るということを自然と身につけていたんだろう。そのせいもあって、ぼくは表向きは非常に”いい顔”を持っていると思う。

しかし家に帰ると途端に静かになるし、外にいる時とは全然別の顔になっている。家族に対してもどこか冷めている感じになっていた。ぼくとしては家の中ではただ思いっきり素の自分でいるだけだから普通のことだけど、一緒に暮らす家族からしたらイヤだっただろうな。。

でも最近はそれがちょっと変わってきた。お爺ちゃんが年を取ってきて体も弱くなり、昔のようにやっかみを言わなくなったのもある。そしてどこか弱々しくなったせいか、頼ってくるようになったからかもしれない。親父も同じくもう直ぐ60歳を迎え”老後”のことを考えたり、体力的にも少し弱くなってきている。そうした家族の変化を見ていると、否が応でも冷たくしてはいられないなとどこか思い始めているからだ。

そうした中で、お爺ちゃんとの会話も増えてきて、昔の話を聞いたりするが、それも悪くない。親父も同じく昔の話をする。そんな話を聞きぼくは自分のルーツを探っていったりしている。それも楽しくなってきたんだろう。この人達がいて始めて自分がいる。そう思わされる日々だ。

自分には何ができるのか?とか、自分にしかできないことがしたい!とか、ずっと自分にばかり注目していたけれど、本当に自分という人間を知るなら、家族と話をするのが一番いいのだろう。ぼくが今やりたいことは、この環境、この場所に生まれ、この人達がやってきたことを”服”にして、ただ世間に広めるだけのことだ。それがぼくに出来ることであり、まだ多少の承認欲求はあるものの、本当は自分のことはどっちでもいいんじゃないかと、そう最近思い始めているのだ。

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