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「530」狂気、美しい

自分の中ではっきりし始めたことがある。 本当に美しいものには、狂気があるということだ。

今回作った服を見てもらうためと、今後の進行具合をお伝えするため、静岡にある機屋さんへ行った。今回作った服の大元となる生地を作った人に会いに。機屋(はたや)とは生地を織る場所のことだ。

ぼくが作った服は、そもそも元を辿れば、この生地がなければ全く成立しない。この生地があるからこそこの服が存在することは確かで、これからもこの素材があり続けて欲しいと心から願っている。そういった心からのお礼と、改めてその素材について色々話を聞きたかったのだ。

4時間弱話した。機屋さんのスタッフの女の子はかなり疲れ切っていたのは確かだ。 とにかくいろんな話をした中で、そもそもなぜここまで合うのかは、互いに一致してるのが、世の中へ抱いてる怒りだ。いかにくだらないものが溢れかえっているか。いかに本物が少ないか。皆んながいかに群れているか。抱いているものがぼくとほぼ一致している。年はぼくの父親くらいの方で、かれこれ40年ほど繊維の世界でやってきている人だ。つまり、ぼくは服関係の業種の仕事をしてトータルでまだ10年弱。それでもかなり怒りがあるのに、それをさらに30年蓄積しているんだからもっとだ。

ぼくの日記をちょっと見たら分かるけど世の中の馬鹿さ加減にはもうとっくに怒りなんか通り越してる。それを30年貯めたら人はどうなるのか。それを体現した人が、その人のように感じる。

偽物だらけだからこそ、本物を作っている。そこにただただ真っ直ぐな人だ。

その人が作っている製品を見せてもらったが、それはただの狂気だった。 まずその機屋さんは綿関係の生地を主に織っている。 それのどこが狂気かって言えば、例えば分かり安く、綿素材の生地で一般的に世の中に出回ってるものは、生地を織る時に使われる糸の太さが60番〜80番前後。(数字が0番に近ければより太い。数が多ければより細い。というのが糸の太さの表し方だ)

今回ぼくが作った服で使用しているのはその大体倍の細さの120番というもの。 はっきり言ってそれでもめちゃくちゃ細い。世にはほぼ出回っていない。その細さがいかに繊細なものかはきっと見ないと分からないし頷けないだろうけど、いやいやそんなもんじゃない。

その人が作った製品は首に巻くストールなんだけど、その糸の細さは300番。 世界を探してもそんなことやってる機屋さんはいないだろうな。感動して鳥肌が立ったことは確かで、持ち上げてみたが、重力を感じない。空気というか、ただただ柔らかい以上で、触ってるのか触っていないのか?というギリギリのラインの肌感触。 正直ゾッとした。こんなの狂気でしかない。こんな物を作って一体何になるのか?誰が望んだでもないのは容易に分かる。しかし、同時にそれは繊細すぎて握ったら消えて無くなってしまいそうな、触るのも躊躇ってしまうくらい儚さを感じる。はっきり言って美しさ以外の何者でもなかった。

ただただ他の誰もが出来ない細さをどこまで実現できるかと試したそうだ。100個だけストールを作ったらしい。というそれ以上作るのは労力と時間と金がかかり過ぎると。どこにもない、世界で自分にだけしか出来ないことをしたいが為に、ただただそれだけのために作ったストールらしい。これが”生地”という世間に受け入れられるものだから良かったものの、そうじゃなけりゃただの変態であり、世の中では確実にはぐれものだったと思う。

一つ面白い話を聞いたんだけど、数年前くらいに、その人が自分が思う、当時の最高の生地を作ったらしく、自分でも物凄い感動したことがあるらしい。生地の展示会に出したところ、それがあるデザイナーの目に止まり、その生地をそのデザイナーが作る服に採用したとのこと。それから時が経ち、そのデザイナーの展示会に招待され、なんの気なしに訪れたらしい。

その展示会で数十着の服を見て、触ったりしてた時に、ただ一つだけ明らかに次元が違う生地があったらしい。その生地に触った瞬間、彼は驚愕で言葉もでなくなかったと。負けた!やられた!この生地を作ったのはどこのどいつだ!?と、こんな奴が日本にいるのかと思い戦意喪失したらしい。

そこへデザイナーや生産担当の人たちが現れトントンと彼の肩を叩く。どうしたんですか?「いや、誰ですかこんな素晴らしい生地を作ったのは!?素晴らし過ぎる!」いやいや、それはあなたが以前作った生地ですよ。

ぼくはこの話を聞いて爆笑した!もちろん嬉しくてに決まってる!最高すぎだわこんな人!こんな素晴らしい人の生地と出会い共鳴出来た自分も誇りに思うくらいだ。 偶然にもぼくの服に使った今回の120番の生地は、その当時、その人機屋さんが作った中でも最高の物だったらしく、ぼくは数十点の生地の中からそれをたまたま選んだ。

その服を今回見てもらい、圧倒的だと言ってもらえた。喜んでくれたのが最高のご褒美だ。やまだくんが今回あまりにも自信有り気に最高の服が出来ましたというから、まあどんなもんかなーと思ってたけど、これはあまりに圧倒的で他にないと。最高な気分だ。全てあなたのお陰ですと伝えることが出来た。

機屋さんとしては、20cm四方に切って台紙に貼り付けた生地の見本を数千点ほどあ持っていても、それを基本的にブランドサイドに見てもらう。そこから生地を選んでもらって、実際に本生産していく。この生地から一体どんな服が作られるのかは、想像できないらしい。

今回ぼくが作った服が、偶然にも機屋さんのアイデンティティと全く一致している物であり、その生地は、生地という生き物として、こうなることを求めてたんじゃないかってくらい、ぼくが作った服はそれを体現していた。

ぼくは、この服は自分でも狂気だと思っている。繊細で美し過ぎる。 美しいものには棘があるってのは確かで、溜め込みまくった怒りがある。 それはすでに狂気であり、だからこそ美しい。

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